先日の火災事故について思う
この前、携帯から更新していましたが、会社で火災がありました。いくつか思ったことを。
会社(グループを含む)は昨年後半から事故・災害が相次いでいます。そんな中、火災が発生しました。残念ながら、私は地獄の一丁目に差し掛かっただけ…つまり、まだまだ事故・災害は続くと思っています。
まだ、ここまでの事故・災害では死者はゼロ、重傷・重体の人も出ていません。しかし、ハインリッヒの法則(1:29:300の法則)に当てはめるなら、1件の重大災害の背景には、29件の軽度の事故があり、300のヒヤリがあると言われています。
裏を返せば、これだけ軽度の事故が相次いでいれば、いつか死亡災害が起きてもおかしくないとも言えるのです。
今、この連鎖を止めなければ、本当に悲惨な事態を引き起こす…私は強い危機感を持っていますが、残念ながら、このような意識を持つ人は少数派のようです。
いえ、「そのうちとんでもないことになるさ。」と思っている人はいるでしょう。でも、他人事なんです。
その象徴とも言えることが先日ありました。
ヘルメットの網状の部分を取り外す際、固くなっていて、爪で無理矢理取ろうとして、爪がはがれるという事故がありました。同じ職場で、同じ日に現場で軽微な災害がありました。
同じ職場で同じ日に2度も災害が起こる。尋常じゃありません。普通は、1件でも一大事で、「これ以上、災害を起こしてはいけない。」という危機感があれば、自らの言動に注意するものです。2件とも、少しの注意・基本に忠実(ルールを守る)ことで回避できたことです。
他人事は現場だけではありません。事務所にいる人も他人事。今、事故が起こり、非常体制の最中なのに緊張感に欠けている。やっぱり他人事なんです。
第一のキーワードは「他人事」ですね。
では、これらは働く末端の人だけが悪いのでしょうか。私は違うと思います。管理職・経営にも問題があります。
1.従業員に対して充分な報酬を与えていない
いざなぎ越えの景気の際に、株主の顔だけを見て、従業員の待遇を改善してきませんでした。その結果、従業員は士気を落としまくっています。「未曽有の不況」という言葉を使い、賃金の上昇抑制(場合によっては賃下げ)を行い、福利厚生をどんどん削り、若い世代を中心に生計を維持するのもギリギリの状態になっています。
「未曽有の不況だから、緊急避難的に制度を変えてキャッシュアウトを防ぐ。苦しいが我慢してくれ。」と経営サイドは言いますが、従業員は、「はいはい。どーせ、それを常態化させて、自分たちは高給を取っているんでしょ。」という冷めた見方をしています。
従業員だって馬鹿じゃありません。いざなぎ越えと言われた好況の際のことがすぐに思い浮かびます。経営サイドが何を言おうと、従業員の心は離れる一方です。
こうした問題が下地にあります。
2.その結果、社内の空気は最悪に。
こうした危機的状況を乗り越えるためには、みんなが協力する必要があります。
しかし、1.で書いたような下地があるため、経営サイドが「みんなでこの厳しい状況を乗り越えよう」と言っても、「お前が株主総会で株主から責められたくないからだろ。」と冷めた見方をします。事故・災害の連鎖を断ち切ろうとメッセージを発しても、従業員の心に響きません。
自己保身のために、それぞれが好き勝手なことを言い出し、実行します。その結果、経営 VS 労働者だけの関係だけでなく、横のつながり(部署間の関係)まで、ズタズタになります。、
上が、「コストを減らせ」と号令をかけ、「それが達成できないのは無能だ」と言わんばかりのことを言えば必死になります。無理に無理を重ねて、自部署だけで吸収できず、他部署にも協力を求めなければなりません。その部署だって、限界に近づいていますから、押し付け合いが起こり、関係性が悪化することもしばしばあります。
3.活動が多すぎる
こうした事故・災害を契機に色々な活動が立ち上がることがあります。でも、これまで行ってきた活動を整理・統合・削減することは、ほとんどありません。
こうした活動は「安全に関することだから」と聖域化し、減らすことが悪のような空気になっています。
しかし、こうした活動をやらされる現場はどうでしょうか。ただでさえ、人員を減らして多忙なのに、こうした活動も重くのしかかります。無駄時間を減らすのはいいですが、もはや臨界点を突破しています。これ以上、負担を増やせば、注意力低下を招きます。
似たような活動は整理・統合をする。数を減らした分、確実に行わせたり、密度の高い活動を目指すようにすれば良いと思いますが。
4.事なかれ主義
3.の背景に事なかれ主義があります。「事故対応として、○○活動を行うようにしました。」と報告すれば、確かに立派な対策を取ったように聞こえます。しかし、この報告者は現場・現実を無視している。
「これ以上、面倒なことは勘弁して欲しい」
という心理。それが魂のこもっていない、適当な活動を蔓延させ、現場を疲弊させて行くのです。
そういう心理背景があってスタートした「○○活動」の類や守れないようなルールを作って、その場を取り繕うけど、すぐに形骸化します。こうして、末端の従業員にまで、「中身なんかどうでもいい、形式を整えれば良い」という発想を生み、その従業員が上に上がって…と負のスパイラルを生むのです。
また、頭がいい人が言い出すから、理屈では、ものすごく正しいことを言います。しかし、実際に回らなければ意味がないのです。その結果、仏(=ルールや活動)作って魂(=その活動の意義や必要性の浸透)入れずになってしまうのです。
こうして、臭いものに蓋をして、蓋で抑えきれなくなった時、手痛いしっぺ返しとして、事故・災害の連鎖が起こっているのではないでしょうか。
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この連鎖を止める処方箋は?
残念ながら即効薬はありません。でも、唯一あるとするならば、「事なかれ主義」をやめて、現場・現実を直視することです。
もう、その場を取り繕うようなことはやめましょうよ。課長レベルも、部長レベルも、その上も。
まずは、課長は現場の声に耳を傾け、部長は現場の代弁者である課長の声を聞き、その上で、みんなで知恵を出しましょうよ。
ただ、関係性が冷え切っています。末端の従業員がすぐに本音を話してくれるとは思えません。話してくれるまでは忍耐です。信じ、待ち、許して信頼関係を構築していくことです。
信頼関係ができて、本音が出て、そこで初めて、耳の痛い話を聞けて、問題に対峙できるようになるのです。
そして、対峙した時、やっと、「その場を取り繕うことをやめる」ことができるのです。そして、こうした行動を積み重ねていくことで、信頼関係はより強いものになっていくと思います。
信頼関係を壊すのは、あっという間です。でも、失われた信頼関係を再構築するのは、かなりの労力を要します。
辛抱強く、耐え忍ぶことができるか。そこが連鎖を止めるキーポイントだと思います。