もしもショートサイズをなくしたなら

mixiのスタバコミュで行われているアンケート。

学生のゼミの仮説を検証するためのアンケートだそうで、次の文が掲載されていました。

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最近のスタバは混みすぎて、昔のようなオシャレなイメージ、
ブランドが崩れてきていると言われています。
そこで、この混雑解消のための戦略をゼミで研究しています。

私たちのゼミの仮説としては、

一番値段の安いshortサイズをなくしてみる
  →客数が減って混雑解消。
   客単価が上がるので、売上に支障はないのではないか

トールやグランデは高いので立ち寄る回数はやはり減るのでしょうか。
それとも変わらず立ち寄るでしょうか。
みなさん是非教えてください!!

——

さて、ちょっと学生(大学生かな?)の割には文章がやや稚拙な感じがしますが。数学の証明問題のように、少し整理してみると。

(問題) ブランド力が低下していると思われる。

(仮定) 混雑が原因である。

(結論) ショートサイズを無くしてみる。

という課題に対して、証明するためにアンケートを用いたということになるでしょうか。

まず、私は疑り深いので、(問題)の部分から、疑っています。

ブランド力の低下自体が誤っているのではないかと。それは、このブログで過去にネタとして出したYahoo!掲示板の書き込み(リンク先はPCのみ)で紹介していた、エルゴブレインの調査(リンク先はPCのみ、PDFファイル)でも明らかな通り、好きなコーヒーショップでは、ぶっちぎりでトップでした。

もし、証明手法をアンケートに頼るなら、この調査が出ている時点で、そもそもの(問題)の部分に誤りがあると思います。

次。では、百歩譲ってブランド力が低下しているという(問題)の部分が正しいとしましょう。

でも、「混雑」だけが原因でしょうか。それさえも正しいと譲歩したとします。

ならば、混雑が原因なら、単純に商圏が重なるところに出店するか、店舗そのものを巨大化すればいいのです。それが最も簡単に原因を解消でき、わざわざ「ショートサイズを廃止する」という(結論)は崩れます。

もし、その(結論)に導くなら、その証明が必要なわけです。アンケートを求めるにあたり、簡単な事情説明という位置づけで省略したのかもしれませんが、ちょっと論理的に破綻していると思います。

私が書き込みしたとおりで、混雑が原因でブランド力が低下しているとしたら、スタバが日本に上陸した当初はもっと混雑していました。

10周年の時に銀座松屋通り店(日本第一号店)がオープンした日の様子を回顧する文には、このようなことが書いてあったと思います。

「お店の外までたくさんのお客様が並んでいた。」

これでは、逆に「混雑していても、並んでも商品を得たかった。」わけですから、むしろ、ブランド力を証明することになってしまいます。

書き込みに出したとおり、行列のできるラーメン店は、ブランド力があるから並んでまで食べたいと思うわけですよね。

もっと言えば、ブランド力というのは、複数の要素が存在するわけです。

1.商品の品質

2.店舗の雰囲気

3.従業員のサービス・応対

4.知名度

5.話題性

私が、少し列挙しただけでも、これらの要素があります。ブランド力という言葉は、このように曖昧で多数の要素を含んでいるわけですから、そもそも何を持って「ブランド力」とするか、その定義が必要なわけです。

ブランド力の低下は、次のような場合に起こると思います。

例えば、グッチやシャネル、ルイ・ヴィトンのような高級ないわゆる「ブランド品」と呼ばれるものは、高品質だが、高価格な商品だと思います。もし、これが、品質を多少落としても、安価な商品を出したならば、人々は簡単に手が届くと思います。この時、相対的評価では、ブランド力が低下したと判断するのではないでしょうか。

つまり、今までは、お店の数も少なくて、しかも、話題性もあった。上陸した当初は、PTRさんがコーリングするように、滑らかにオーダーできるのがカッコ良いとされた時期もあった。スタバでティータイムを過ごすのが、おしゃれなデートだったという時期もあった。(事実、週刊や隔週刊の雑誌でそのような取り上げ方をしていたり、テレビで紹介されていた時期もあった。)

でも、今は、都心部を中心に店舗はかなり増えたし、行こうと思えば毎日行けるようになった。つまり、コモディティ(日常的)になったために、相対的な評価が下がった。という仮定はできないだろうか。

どういう勉強をしている学生かわからないけど、商売として考えた場合、本当にショートを無くすことが得策でしょうか。

確かに、渋谷TSUTAYA店のように、来客数がとんでもなく多い場合には、オペレーションを簡略化して、数をこなす必要があるお店があるのも事実です。

ですが、これは例外中の例外。

これも書き込みをしたけど、

1.試飲的な飲み方ができる。

 はじめてオーダーする飲み物が、自分に合っていないというリスクを軽減するために、お試しでショートを頼む。

2.あまり量を必要としていないお客さんに対応できる。

 コスト的には、ショートは良いとは言えないようですが、女性、小さな子供、出勤前など急いでいるが飲みたい人には、量を多く欲していない人もいます。

 そうした人に対応できることは、短期的なコストでは損かもしれません。

 少量しか欲していないお客さんの立場で見た場合に、大きなサイズで値段も高いと、結局、残してしまうのだから、割高な印象を与えます。

 これって、短期的な利益は得られるけど、中長期では、客離れをもたらします。お客さんの側では、こう感じるでしょう。

 「少ししか必要ないのに、量が多くて高いから、損した気分になる。」

 これって、金銭的な「損した気分」は、お客さんの満足度を下げる大きな要因だと思います。いくら客単価を上げても、マイナスイメージをもたれてしまえば、どんどんお客さんは逃げてしまいます。

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では、私が、もしこの課題に取り組むなら、どうアプローチをするでしょうか。批判ばかりでは能がないので、少し考えてみます。

まず、第一段階では、ブランド力が下がっているかどうかを立証します。

質問をするなら、こうです。

問1.「あなたは、スタバのブランドが低下していると感じますか?」

問1選択肢.Yes/No/わからない

次に、この時点で、Yesが多ければ、自分の問題認識は正しいと判断できます。では、次に、なぜそう感じているかを聞きます。これは、先の文に書いたように、ブランド力には複数の要素があるわけですから、どの点が問題なのかを明確にする必要があるのです。

問2.問1でYesと答えた方に質問します。あなたがそう感じた理由を選択してください。

選択肢 混雑している、どこにでもありふれた存在になった、商品の品質が低下している、接客が低下している、店舗内が騒々しい、その他(自由記述欄にお書きください)

このように、論点を抽象的な内容から、具体的な内容に落とし込んでいかないと、課題が明確になりません。

いきなり、ブランド力低下→混雑という時点で、少し乱暴すぎる論理展開なのです。一つ一つをしっかり検証していかないと、必ず論理破綻します。また、回答するサンプルはできるだけ同じ人に答えてもらうほうが良いので、設問は一度に複数問出したほうが良いでしょう。

そうしないと、年齢・職業・性別などがバラバラになり、サンプルの質に大きな違いがあると、統計的に信用できる結果であるとは言いがたくなり、そのようなデータを用いた時点で、証明の正当性が疑われることになります。

また、場合によっては、年齢×職業のような2元で解析したり、年齢×職業×性別のような3元解析をしたり、来店頻度、来店時間帯なども考慮しないと正確な証明とは言えません。

マーケティングリサーチや、調査会社というのは、このようなことを考慮して設問を組み立てています。利用者属性というのは、かなり大事なファクターですので、これを除いて「女性社会人」「男性社会人」「学生」という3分類はかなり乱暴ですね。だいたい、どうして学生だけは男女の区分をしないのかが疑問ですし、小学生も学生なら、大学生も学生で、これはあまりにも幅が広く、経済的な余力も違いすぎます。

少し理系特有の理屈っぽい内容になってしまいましたが、論理的な整合性というのは、このように作り出されるものだと思います。

全体的に何が課題なのかよく見えません。ブランド力という言葉が出ていますが、ブランド力を高める先が何なのかが理解できないのです。

儲けるためにブランド力の向上が必要なのか、ブランド力を生かして新しい事業・分野に進出するのか、顧客満足度という点からブランド力が必要なのか…。ビジネスとして考えたとき、ブランド力の向上というのは、目的達成のための一手段だと思います。根本の目的が何なのかが明確でないと、リサーチをする方向性もぶれてしまいます。

何の学問かは定かではありませんが、ちょっと、ふわふわと浮き足立ったアプローチをしていると思いますね。私が教授なら、これでは、良は付けられません。

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